「単品通販」からの卒業――生き残るブランドが始めていること

主力商品の売上が下がり続け、広告を打っても反応が鈍い。そんな悩みを抱える通販化粧品企業は少なくありません。時代とともに、お客さまの購買行動や価値観は確実に変化しています。“いい商品”を作るだけでは届かなくなった今、求められているのは──。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』8月31日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.95」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝化粧品業界の「パーソナルカウンセリング」への成功の鍵〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

“売る”から“導く”へ。通販にこそパーソナルカウンセリングを

通販化粧品会社 担当者

単品通販でやってきた主力商品の売り上げが右肩下がりで回復の兆しが見えません。売上の7割近くを占めているので、当然業績も下がり続けています。広告投資をしても新規獲得が増えるとは思えず、クロスセルも効きません。正直あと何年この業界でやっていけるか不安な毎日です。何か打開策はないものでしょうか。

以前、このコラムで「通販で高級化粧品は売れるのか?」という質問に対し、そのためには店販と同等、もしくはそれ以上の商品価値と情報提供、サービス、イメージ戦略が必要だと回答しました。加えて今回は「パーソナルカウンセリングが必要だ」と伝えたいです。

化粧品は他社と明確に差別化されたオリジナリティーと、商品にマッチした美容理論が不可欠です。その上でお客さま便益(ベネフィット)に応えていくには、万人受けする化粧品はないはずです。

お客さまは一人一人、肌状態も異なれば、肌悩みも、なりたい肌も異なるはずです。そんな多くの選択肢の中で「私にぴったりの化粧品だわ」と思える商品こそがお客さまにとって良い商品なので、万人に支持される商品などあり得ないのです。

そのように考えると、ご相談のように一品だけを訴求する単品通販ビジネスに陰りが見え始めたというのも、ある意味当然といえるのではないでしょうか。

通販化粧品業界全体で新規獲得が難しくなっている今、単品通販からラインアップを揃えてクロスセル重視に移行したり、さまざまなスペシャルケア商品をリリースするブランドも出てきています。

通販でも“対面品質”の提案を。カウンセリング型価値の時代へ

Elegant display of colorful cosmetic bottles in a neat arrangement for design inspiration.

化粧品は本来使う人の肌悩みを解消したり、理想の肌を叶えたりするお手入れの手助けをするためのものです。そのためには、一人一人のお客さまの肌に向き合って、どんな商品でどんなお手入れをすることが必要かを提案する販売員の存在が不可欠です。

これまで百貨店などの対面販売では、個別の「カウンセリング1」がサービスとして根付いていました。しかしコロナ禍後、各化粧品メーカーは、スマートフォンのアプリを使ったAIによる肌分析など、高度なIT技術で、店販のカウンセリングに匹敵するようなサービスをオンライン上で提案できるようになりつつあります。

化粧品販売のカウンセリングとは、まずお客さまの肌状態を把握するために、肌質(乾燥肌・普通肌・脂性肌・混合肌・敏感肌)、肌悩み(目もとの小ジワ・シミ・くすみ・たるみ・乾燥・ゆらぎ・毛穴の開きなど)、肌の特徴(赤ら顔や血色が悪いなど)を診断したり、ヒアリングしたりしながら、そのお客さまの状態にぴったり合う化粧品や生活習慣にマッチしたお手入れ方法をアドバイスことです。

販売する側が不特定多数のお客さまに向けて一方的に商品を売るのではなく、一人一人のパーソナルに迫った体験型価値を提供することが必要なのです。

生き残る通販ブランドに共通する3つの準備

一人一人のカウンセリングに不可欠なのは、単品通販からの脱却と、目的に合わせたブランド独自の美容メソッドを確立させ、肌悩みに寄り添って課題解決できる商品を用意することと、必要なお手入れ方法を提案できることです。

当然ながら”単品”だけではそれぞれに異なるお客さまのパーソナルニーズに応えることはできないでしょう。さらに自社の美容メソッドを正しくお客さまに伝えられる人材の育成も必須といえます。しかも販売現場の人材だけでなく全社員の意識と知識レベルを統一することで、カウンセリングにおける接客トークはもちろん、商品開発や広告戦略まで、お客さまに一貫した情報をお届けすることができるのです。

お客さまに対して曖昧な対応をしたり、スタッフごとにバラバラの見解を示したりすると、いつまでもブランドの価値が定着しないだけでなく、お客さまの信用を失いかねません。

つまり、これからの化粧品通販で生き残るためには、(1)美容メソッドを確立する(2)カウンセリングができる機器類やツールを用意する(3)カウンセリングできる人材を育てる。(コールセンターや美容相談員)─この3つの準備を進めなければならないと考えます。

いま、お客さまはさまざまな手段で情報を得られる状態になっています。そのようなお客さま一人一人に合ったアドバイスができるようになるには、今後の化粧品販売にふさわしい事業改革に取り組まなければ、生き残る道はないと考えなければならないでしょう。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーでは、ブランド独自の美容理論を整理し、社員一人ひとりが自信を持ってお客さまに伝えられるよう、教育プログラムやマニュアル整備までを一貫してサポートしています。“カウンセリングができる現場”を育てることが、信頼されるブランドづくりの第一歩だと考えています。

用語解説

  1. カウンセリング販売-お客さまの肌質や悩みをヒアリングし、最適な商品やお手入れ方法を提案する販売スタイル。百貨店などの対面販売で主流だったが、近年はAI分析やオンライン相談でも実現可能に。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ今、通販でもカウンセリングが求められているのですか?

化粧品市場では「情報の非対称性」がほぼなくなりつつあります。SNSや口コミで誰もが比較検討できる時代に、企業が一方的に伝える情報だけでは購買につながりません。お客さまの“自分に合うものを選びたい”という心理に寄り添うカウンセリング型提案こそ、ブランド信頼を生む鍵になっています。

カウンセリングを導入するには、何から始めればいいですか?

いきなりAI診断やアプリ導入に投資するよりも、まずは「自社の美容メソッドを言語化する」ことが先決です。なぜこの商品をつくったのか、どんな肌状態の人に最も効果を感じてほしいのか──その“理論の軸”が定まってこそ、接客・教育・ツール開発の方向が統一されます。

今後、通販化粧品ブランドが成長していくためのキーワードは?

「デジタル×人の温度」です。デジタル技術で効率化を進めつつ、人の温かみを感じる接客・情報発信を続けられるブランドが支持されます。特に定期顧客との関係性は、“自動化ではなく対話”の積み重ねが信頼につながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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