通販と店販の境界を超えて ― コロナ禍が示した未来像

外出自粛による休業、止まる店舗売上。化粧品業界をはじめ多くの小売業が、これまでにない厳しい状況に直面しました。そんな中で改めて浮かび上がったのは、日頃からの「お得意さま」とのつながりの大切さでした。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月7日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.63」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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店舗でも通販でも、未来を左右するのは「お得意さま」との関係づくり

通販化粧品会社 担当者

外出自粛で店舗は休業中、今後の見通しが立ちません。出店しているビルが休業中で、店舗の売り上げがない状態が続いており、先が見通せず不安な毎日を送っています。いつも来店してくださっているお得意さまには電話などで、必要なものは宅配でお届けするようにしています。

今回の新型コロナウイルス感染拡大の問題で、多くの店舗が休業に追い込まれる中、通信販売は逆に注文が伸びている企業が多いようです。

しかし、それも商材によって差があります。消費者の在宅率が高くなったので食品や健康食品が伸びており、特に食品は在宅比率の高まりとともに注文が殺到して、配送が追い付かないようです。健康食品も”免疫力アップ”をキーワードに伸びています。特に喜ばれているのは、食事や生活習慣の情報提供をしている企業のウェブサイトです。

わが社が多くお手伝いしている化粧品会社はお客さまの反応が分かれています。

店頭販売の化粧品メーカーは百貨店やファッションビルそのものが休業になってしまったところも多く、お客さま対応が難しくなっていますが、それでも販売員たちは、固定客に電話でカウンセリングをしたり、スマホで使い方を動画指導したりといった工夫をしているようです。御用聞きのための電話も歓迎されているようです。

みんなが自宅にこもるようになったので、小さな情報が歓迎されています。例えばマスクをしている時のメーク術や自宅でできるエステ商品なども人気のようです。普段は煩わしいと思うお店からの電話や案内メールも、人恋しさからか素直に受け入れてくれるお客さまも多いようです。

一方、通販の方は、お客さまの反応もまちまちで、「こんな時に化粧品を売るなんて」とお叱りをいただく場合や、反対に「ちょうどなくなっていたのでありがたい」と喜んでくださるお客さまもいます。

ただし通販の方は外出自粛の中でコールセンタースタッフの確保が問題になっており、配送と同じく人手不足で注文に応えられるかどうかが問題になっています。ある保険会社がすべてのコールスタッフを在宅勤務にしたというニュースは、驚きとともに「いよいよそこまでデジタル化か」と思わされます。

原点回帰だけではない、時代に即した小売業の姿へ

店販でも通販でも、こんな状況になると、やはり最後に頼りになるのは「お得意さま」とみんなが実感したと思います。日本人であれ、外国人であれ、大切なのは一人一人のお客さまです。きちんと一人一人のお客さまと絆を結ぶ売り方をしていないと、いざという時に何もできないということが明確になりました。

どんな業態であっても、盤石の固定客を持っている小売業は強いものです。つまり今回の新型コロナウイルス禍は小売業の原点とは何かを教えてくれるきっかけとなったのではないでしょうか。ただし、単なる「原点回帰」ではなく、本来の小売業のあるべき姿を踏襲しつつ、手段や手法は今の時代にふさわしいコミュニケーション方法を取る必要があるということです。

強い絆とコンセプトを持つブランドだけが生き残る時代へ

では、この新型コロナ禍の後にどんな世界が待っているのかを予測すると、おそらく人々の価値観は大きく変化してくるでしょう。

建て前や形式がなくなり、本質に迫る考え方が本流になるはずです。小売業で言えば、通販も店販も業態の境界線がなくなると予測されます。しかも従来型の会員通販ではなく、前回も書いた「誰でもすぐに利用できる、SNSを通じた御用聞き」のような通販から、限定された会員のみのコミュニテイー&通販1まで、さまざまなスタイルが出てくるでしょう。

新型コロナウイルス終息後、しばらくは大手企業のコモディティー型商品がかなりのスピードで回復してくるでしょう。しかし、その後は、本当に価値のあるもの、ニーズにあったものが厳選されて消費されるようになるでしょう。そこでは強いコンセプトやメッセージ性のあるものが残り、本当に支持してくれるお客さまと強い絆で結び付くことができるブランドが、力を発揮することになると思います。

つまり今回の新型コロナウイルス禍から、私たちは企業も個人も強くならなければいけないということを学ばなければいけないと思います。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

店舗でも通販でも、選ばれるのは強いコンセプトを持つブランドです。フォー・レディーは、そのコンセプトを一から見直し、時代に合った形に磨き直すことで、お得意さまとの絆を深め、未来へとつなぐコミュニケーション戦略まで伴走します。

用語解説

  1. コミュニティー通販-特定の会員やファンだけが参加できる仕組みを設け、商品販売に加えて交流や情報共有を重視する通販のスタイル。 ↩︎

深掘りQ&A

コロナ禍で特に強いと感じた小売業の特徴は?

単に商品力や広告力に依存するのではなく、「お得意さま」との長期的な関係を築いていた企業が強さを発揮しました。危機の時こそ、信頼関係のあるお客さまからの支持が企業を支えます。

店舗と通販の境界がなくなる、とはどういうことですか?

店舗での接客がデジタルツールを通じて行われるようになり、逆に通販でも対面に近い相談やアフターケアが求められるようになっています。販売の“場所”で区切るのではなく、お客さま体験を軸に考える時代へシフトしているのです。

 「お得意さま」との絆を深めるためにできる工夫は?

商品の案内や割引情報だけではなく、生活に役立つ情報や気持ちに寄り添うメッセージを届けることです。とくにコロナ禍では「人恋しさ」から、ちょっとした電話やメールに喜んでくださるお客さまも多くいました。

 今回の経験から、企業が学ぶべきことは何でしょうか?

予測できない状況に備えるためには、短期的な販売チャネルやキャンペーン頼みではなく、顧客との関係性をベースにした強いブランドを育てること。そして、変化に対応できる柔軟さを持ち続けることです。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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