コロナ禍の追い風を受け、一時は順調に売り上げを伸ばしていた企業が、今では勢いを失っている――。同じ商材、同じ環境でも結果に差が出たのはなぜでしょうか。外部要因だけでは語れない“失速の理由”が、ブランドの内側に潜んでいるのかもしれません。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』5月4日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.91」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。
売上重視の効率化が、ブランド価値の低下を招いた

創業以来、比較的順調に売り上げを伸ばして規模を拡大してきたのですが、コロナ禍を経て急速に売り上げが落ちてしまいました。大ヒットしていたメイン商材が伸び悩んできたからです。その理由を探り、対策を考えるヒントがほしいです。
コロナ禍も3年目になってようやく普通の日常が戻ってきました。消費活動も戻ってきたという気がします。
しかし、この3年の間に企業の勝ち組と負け組がはっきりしてしまいました。一つは業種による差で、旅行関連や交通関連、デパートやイベント関連業種は、完全にコロナ禍の影響で多くの会社が負け組になってしまいました。
ところが、通販のように追い風が吹いた企業の間でも、また同じ商材を扱っている会社でも業績に大きな差が出ています。伸び悩んでいる事例は、そもそも業務改善が遅れていたり、スピーディーな対応ができなかったり、課題解決のアクションが緩慢だったり、コロン禍とは関係なく課題が山積していたところが多いようです。対策を先送りにしていた結果のツケが、コロナ禍で一気に噴き出し、失速を招いたと言えるのではないでしょうか。つまりコロナ禍はさまざまな変化に対応する課題解決力のある会社と、そうでない会社の差を明確に突き付ける結果になったようです。世の中の変化のスピードが速まったのです。
化粧品は「売って終わり」では価値を発揮しない

化粧品通販でいえば、単品依存1が大きすぎてリスクヘッジが不足だったり、他社に勝つ価値が見いだせていなかったり、売り上げや効率重視でお客さまとのコミュニケーションやブランド価値を磨き上げる業務がおろそかだったりという理由が考えられます。
化粧品は存在するだけでは価値を発揮しない商材です。お客さまに毎日喜んで使用してもらって初めて結果が出る商材なので、販売しただけでは「半完成品」。お客さまに正しく使っていただくことが不可欠です。
そのためには、適切なコミュニケーションで、希望や目的や夢を共有できる「寄り添い型2」のビジネスであること、そんなブランディングが不可欠なのです。
にもかかわらず、売り上げのみを重視した効率的な戦略では、お客さまもコストで動くようになります。同じような機能を持つ安い商品が出てくれば、そちらに流れてしまうのも仕方のないことです。大ヒット商品でも、リリースしてから年月を経れば新鮮さは失われ、テクスチャーも人々の好みの変化から遅れてしまうようになります。
つまり好調な時期にやっておくべき「ブランド価値を上げる」という業務がおろそかだったのではないでしょうか。お客さまが競合他社に興味を抱く前に、わざわざ自社で買ってくれるお客さまの声に耳を傾け、「なぜわが社を選んでくれるのか」「どうすればもっとファンになってくれるのか」など選ばれる理由を突き詰めて考え、さらにもっと選ばれるような要素を積み上げておくべきだったと思います。
そうすればお客さまの記憶の中に明確にブランドの魅力が印象付けられて、簡単に他社にブランドスイッチされることは避けられたと思います。
化粧品会社は利益をそのような分野に投資して、次の利益のために備えておくべきだと考えます。
「わざわざ選ばれるブランド」へ、地道な再構築を

通販化粧品ビジネスの場合は、店頭販売と異なって成長するときは大幅な拡大が可能ですが、いったん失速し始めると落ち込み方も大幅になります。例えば1年間で70%台に落ち込むような事例も多くあります。コロナ禍ではもっと大幅な落ち込みになったことでしょう。
しかもコロナ禍が直接的な原因ではないため、回復させるためには相当の覚悟で戦略転換を果たさなければなりません。
そもそも通販化粧品は運営の仕方で大きな山や谷に陥りやすいビジネスとも言えます。それだけ安定的な経営は不可能なので、ブランディングとファンづくり、効率的な業務運営を同時に達成しなければなりません。
今後の対策としては、お客さまにわざわざ選ばれるブランドを目指して、他社との「差異性を強調したコンセプト」を打ち立て、「〇〇が好き」と言ってもらえるブランドにするための戦略を組み立てることが必要です。
あとは全員が思いをひとつにして日々邁進するしか方法はありません。一気に解決する奥の手はないので、新たな戦略に沿って日々やるべきことを地道にやっていくしか方法はありません。

鯉渕登志子
フォー・レディーは、お客さまの声と企業の思いをつなぎ、もう一度“共感で選ばれる”ブランドへ導きます。売上の回復ではなく、信頼の再構築を。そこに、未来の成長があります。
用語解説
- 単品依存-売上の多くを特定のヒット商品1点に頼っている状態。短期的には効率がよく見えるが、商品のライフサイクルや市場変化の影響を受けやすく、失速時にリスクが集中する。ブランド育成の遅れを招きやすい構造的課題でもある。 ↩︎
- 寄り添い型ビジネス-お客さま一人ひとりの目的や悩みに共感し、継続的にサポートしていくビジネスモデル。単なる販売ではなく、「使う喜び」や「成果の実感」を共有する姿勢が求められる。通販化粧品においては、使用方法・アフターケア・会報誌などを通じて信頼を育む関係づくりが重要。 ↩︎
















忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。