サービス競争に振り回されないために──“選ばれ続ける仕組み”をどうつくるか

比較と判断が一瞬で行われるEC時代。お客様の要求も多様化し、すべてに応えようとすると企業側の負担は大きくなるばかりです。だからこそ、自社が提供すべき価値と、あえて提供しない領域をどう定めるかが重要になります。本コラムでは、その考え方のヒントを探ります。『週刊粧業』12月8日号に掲載され「激変するコスメマーケット vol.114」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝消耗戦にならないブランドの哲学〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

検索能力の高まりが生む“比較前提”の購買行動

最近、お客様調査でお話を伺うと、一般消費者であるお客様たちの検索能力のすごさに驚かされる。スマホ一つで、どんな商品が良いか、成分はどんなものか、口コミはどんな人が発信しているか、さらにどこで買うのが一番お得か、他社と比べてサービスはどうかといった点を、買う前から十分に調べ上げている。あるいは、買ってからもチェックし続けている。そして定期購入の価格が安ければ気軽に買って、自分に合わないと思えば、すぐに解約する。

とにかく検索をして比較する能力が半端ではない。自分が得することやサービスに関してはとても敏感だ。他社との比較を根拠に、様々なサービスを要求してくる。それが叶わないと知ると、購入チャネルを細かくチェックして、有利な買い方を選ぶ。例えば、Amazon、楽天市場、Qoo10といった具合に、メーカー直販ではないチャネルで、別のサービスを得ようとする。この判断のスピードもすごく早い。

これがEC時代なのだと実感させられるが、その一方でスピーディーに判断しているだけに、最初の段階で、より深くその商品を知るということは少ないようだ。まずは極めて表面的なことからスタートしている。企業側も最初は軽い情報をリリースしている印象だ。要は全てスピード優先。世の中は全て軽く表面的な情報だけで動いているのかもしれないとさえ思ってしまう。

新ブランドに寄せられる“他社比較”による要望の高まり

そのようなお客様でも、サービスに対してはとても敏感だ。先日もお客様調査で本音トークのインタビューを行ったところ、多くの要望が寄せられた。特に他社サービスとの比較が大きな話題となった。例えば、「他社はポイントが付いて定期商品の支払いにも使える」とか、「何回か購入したらお楽しみプレゼントがあるのが普通だ」とか、「もっと割引率を上げて欲しい」とか、「定期解約を簡単にできるようにして欲しい」といった要望だ。

このお客様調査は、まだリリースして間もないブランドだが、今はそれなりに注目されて人気商品の一角を占め始めた商品である。多くのお客様が注目しているためか、様々なサービスに対する要望が出たのかもしれない。しかし、スタートアップの企業にそんな充実したサービスを要求するのはかなり難しい。そこで、「やるべきサービスと、やらないサービスを明確にする」のが良いのではないかと考えた。

サービスは他社と競争し始めたらきりがない。価格競争にでも突入したら資本力のある会社にはかなわない。それなら他社のサービスと競争することを止めて、自社の考え方や方針を明確にし、「やるべきサービスと、やらないサービス」を分けて、強弱のあるメリハリの利いたサービスを実施することの方が得策だ。

例えば具体的には、「弊社は○○という考え方をしているので、商品の値引きはしないが、○○の場合はたくさん使って欲しいので、セット価格、またはまとめ買い価格にする」。あるいは「○○の場合は、お友達価格で販売する。それはロイヤルユーザーのお客様からの紹介であるため、同じ価格で一緒に使って欲しいという思いやりがあるため」といった主張も可能だ。

お客様の要求をすべて聞き入れるのではなく、自分たちの考え方に基づく正当な主張を堂々と公開し、自社のサービス基準を設けて「やること、やらないこと」にメリハリをつけたサービスを提供すること。この方が、他社に追随するよりもよほど潔く感じられる。サービスで凌ぎを削るよりもよっぽど好ましい。

“伝え方”こそがサービス価値を左右する

ただし、伝え方は、正しい理由を上手に分かりやすく伝えることが重要だ。ほとんどの不満要因は「伝え方」によって解消することもある。押しつけがましくサービスをアピールするだけでなく、感謝の気持ちとして「あなた様には特別に○○をさせていただきます」と言われたほうが、気分が良いのと同じように、思いやりのある表現を心掛けたいものだ。

自社が「やるべきこと、やらないこと」を決めるには、商品開発の考え方、自社の美容メソッド、お客様の望む傾向など、会社の基本方針を貫く必要がある。その上で、ブランドの主張をどのように分かりやすく、どのように賛同を得られるように伝えるかを考えながら、うまくそれらのバランスを取って運営したいものである。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

フォー・レディーは、お客様の声とブランドの想いをつなぎ、“選ばれ続ける仕組み”づくりをご一緒します。サービスを足すのではなく、価値を磨く。その企業らしさが生きる判断と表現づくりを、消費者視点で伴走します。

深掘りQ&A

なぜ、今のECでは“サービスの差”より“ブランドの姿勢”が重要なの?

ECでは情報が氾濫し、サービスは模倣されやすく、すぐに同質化してしまうからです。長期的に選ばれる企業は、サービス内容よりも「何を大切にしているブランドか?」という姿勢を明確に示しています。お客様は意外にも、“ブランドの一貫した姿勢”に安心感と信頼を感じています。

“やらないサービス”を決めることは、お客様を減らすことにならない?

むしろ逆で、「誰に・どんな価値を提供する企業なのか」がクリアになり、合うお客様との関係が深まりやすくなります。サービスを広げすぎると、万人向けになり感動体験が生まれにくいため、“選ばれる理由”が曖昧になってしまうこともあります。

他社比較をするお客様ばかりの時代に、ブランドはどう差別化すべき?

他社が提供する「得・特典・割引」ではなく、“なぜそのサービスを提供するのか”という理由づけ(ストーリー) が差別化になります。同じ施策でも、「安いから」ではなく「あなたの未来の変化を支えるために」というメッセージのほうが、お客様の記憶に残りやすくなります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

BACK TO INDEX