通販化粧品のお客さまサービス、新時代の兆し

通販化粧品業界では今、お客さまサービスの在り方が見直されています。定番のサポート体制だけでは満足されにくい時代に入り、「もっと自分に合ったサービスが欲しい」という声が増えているのです。そこで注目されているのが、“一人ひとりに合わせる”新しいアプローチ。今後のサービス設計に欠かせない視点を探ってみましょう。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』3月12日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.62」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝「あなただけ」の特別感を生むパーソナライズ化戦略〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

“あなたのために”を込めて、一人ひとりに寄り添うサービスが主流に

通販化粧品会社 担当者

現在、お客さまサービスの見直しを検討しており、よりわが社らしいサービスを導入したいと考えています。通販化粧品業界における新しいお客さまサービスの傾向や考え方などをアドバイスください。

お客さまサービスの基本は、快適で安定したサポートにありますが、最近はそれに加えて、一人一人のお客さまに最適化されたサービスを提供する「パーソナライズ化1」が注目を集めています。「あなただけに」という特別感のあるパーソナライズ化は、商品開発も含めて注目されており、最近の化粧品業界では欠かせないものになっています。お客さまサービスも同様の傾向が強くなっているように感じます。

中でも、近年急速な広がりをみせているのが、肌分析とカウンセリングの充実です。ネットや店舗に、数えきれないほど化粧品があふれる時代だからこそ、「自分の肌や髪に合った化粧品を見つけたい」というお客さまは増えているようです。

客観的に肌や髪の状態を把握できる肌分析サービス2やカウンセリングが、これまで以上に求められているのではないかと思います。実際、大手化粧品会社は、最新のテクノロジーを搭載した測定器による肌分析サービスやカウンセリングを競うように導入しています。さらに今年は本格的な肌診断を遠隔で簡単に受けることができるサービスも始まるようです。スマホで撮った写真からAI肌診断を行うサービスで、撮影した顔写真を1万件の臨床データと照合し、数秒で肌状態を分析できるというものです。すでに海外では好評を博しているようで、日本でのサービス提供にも期待が高まっています。

また、自社独自で肌分析が難しい通販化粧品会社に向けて、肌分析のキットを提供する会社も登場しています。協力会社を得ることができれば、より手軽に肌分析サービスを提供できるのではないでしょうか。

LINEやSNSで、一人ひとりに最適なご案内を

もう一つの傾向は、SNSなどを活用したパーソナライズ化です。LINE公式アカウントやメールマガジンを一斉配信せずに、会員属性や購入履歴に応じて最適化することで、「自分だけのため」と思わせることができます。

例えば、購入履歴からタイミングを見計らい、「化粧水がそろそろなくなるころではありませんか?」とメッセージを送信し、ワンクリックで注文できるようにすれば、必要な人には便利であり、不要な人はスルーできます。

購入しなかったお客さまの中には、「まだ残っているから」と購入を見合わせている場合もあります。そこで「残量がこのラインになったら、ご注文ください」とイラストで案内し、購入のタイミングを提示すれば、より親切ではないでしょうか。

これはいわば現代版「御用聞き」です。得意先を定期的に巡回して、注文や要望を受ける御用聞きは、昭和の時代まで地元の商店では日常的に行われていましたが、現代ではSNSでスマートにできるのではないでしょうか。

SNS上のコミュニケーションは、自然な対話ができるようAI任せでなく、定形外のコメントにはコミュニケーターが対応するなどの工夫があると良いでしょう。

店頭に立つ意識で、臨機応変なおもてなしを

他にも「ロイヤルのお客さまには新製品・キャンペーン情報を先行してお届けする」「購入履歴によって、キャンペーン商品を変える」「肌悩みに応じて同梱サンプルを選ぶ」など、顧客データを活用したパーソナライズ化もあります。

サービスのパーソナライズ化を取り入れるのであれば、「その人のためだけ」ということに価値があるので、細かすぎるマニュアルに縛られないような配慮も必要かもしれません。

一定のルールのもとに、全社員が店頭に立って接客している意識を持ち、一人一人のお客さまに臨機応変に対応をしてこそ、真のパーソナライズ化と言えるのではないでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、通販化粧品企業さまのサービス設計から顧客コミュニケーションまで、お客さま視点で伴走します。パーソナライズ化や新しいおもてなしの形を一緒に考え、御社らしいサービスづくりをお手伝いします。

用語解説

  1. パーソナライズ化-顧客一人ひとりの属性や購入履歴、嗜好に合わせて最適化されたサービスや商品を提供すること。化粧品業界では肌状態・悩みに応じた提案や、購入履歴に基づく最適なサンプル同梱などを指す。 ↩︎
  2. 肌分析サービス(AI肌診断)-肌の写真や測定データをもとに、しみ・しわ・毛穴などの状態を可視化するサービス。近年はスマホ写真とAIによる診断も普及し、手軽に利用できるようになっている。 ↩︎

深掘りQ&A

パーソナライズ化は大手企業だけができることでは?

大規模なAI肌診断や高額な測定器は大手の動きが目立ちますが、中堅・中小の通販化粧品会社でも導入できる仕組みがあります。例えば、肌分析キットを提供する外部企業と連携したり、購入履歴やアンケート結果をもとにサンプルを選ぶだけでも立派なパーソナライズ化です。

SNSでの「現代版御用聞き」とは、具体的にどう違うの?

従来の御用聞きは、販売員が顧客の家を訪ねて注文を聞くスタイルでした。現代版では、LINEやメールを通じて「そろそろ化粧水がなくなる頃では?」とタイムリーに声をかけるなど、デジタルで“気配り”を再現します。訪問販売より気軽で、双方向コミュニケーションが可能なのが特徴です。

 マニュアルに頼らず柔軟に対応するには、どう教育すればいい?

重要なのは「店頭に立っている意識」を持たせることです。画一的なマニュアルではなく、「お客さまの立場で考える」「目の前のお客さまをどう満足させるか」を共通認識として社内に浸透させることがポイントです。ロールプレイングや事例共有を通じて“臨機応変に対応する力”を育てると効果的です。

ロイヤル顧客向けサービスは、他の顧客を不公平にしない?

ロイヤル顧客への特典は、差別ではなく「長く愛用してくださっている方への感謝の形」です。特典を段階的に設定したり、新規顧客にも「続ければこんな特典がある」と示すことで、不公平感を和らげることができます。むしろ「ロイヤルになりたい」という動機づけにもつながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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