化粧品業界に必要な横断型売り場とは?スキンケアバー構想の可能性

化粧品市場は新商品があふれ、選択肢はかつてないほど広がっています。しかしその一方で、消費者からは「スキンケアの買い物は疲れる」という声も聞こえてきます。ブランド単位の売り場構造は、果たして今の時代に最適なのでしょうか。パーソナル志向が加速する中、売り場の在り方そのものを再考する必要があるのかもしれません。今回のコラムは、『週刊粧業』2月16日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.115」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝 コスメ疲れを救う理想のスキンケアバー〟

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コスメ市場の拡大と“選び疲れ”という新課題

まだ通販にどっぷり浸かっていない弊社の新人社員に「化粧品を買う時に困ること」を挙げてもらった。いつもの「身近マーケティング」の一環である。彼女曰く「スキンケアの買い物って、なんだか疲れるんです」。よく聞いてみると、店頭販売での買い物のことらしい。

店舗ならばテスターで試せるし、店員からのアドバイスも受けられるのに、何が不満なのかなぁと思いつつ、さらに詳しく聞いてみた。

彼女は生まれつき肌がゆらぎやすく、基本アイテムを決めるのも苦労するという。新しい商品は必ず自分の肌に合うかどうか、十分吟味して試してからでなければ購入しない。販売員に相談して選ぶことも少なくないそうだ。しかしそうなると店舗をいくつもはしごして回らなければならない。

相談したい店員もブランドのスタッフしかおらず、結局高そうなものを勧められ、相談にはならないらしい。この繰り返しで「買い物をするのに疲れる」という。どうにかもっとメーカーにとらわれず肌悩みの相談ができて、効率よくいろいろな商品を試せるようにならないものかというのだ。

その話を聞いて、昔日本にもさまざまなメーカーのアイテムを集めたコスメセレクトショップ1があったなぁと思い出した。LVMHグループが運営するセフォラ2。今でも国外では人気を博しているのだが、日本に上陸した際には大きな話題になったものの、2年ほどで撤退してしまった。

むしろ今日のように次々と新商品が発売される戦国時代にこそ、セフォラのようなサービスが必要なのではないだろうか。いろいろなコスメが常に集約され、お客様がよりパーソナルに買い物できる店舗があれば人気店になるに違いない。

“スキンケアバー”が示す売り場再設計の方向性

では、そんな店舗ができるとしたらどんなサービスがあったら嬉しいか。例えばその名は“スキンケアバー”みたいなイメージで、少し妄想を膨らませてみたい。

まずは全アイテムのテスターが取り揃えられていることが肝心だ。棚の配列も、比較しやすいようにブランドごとではなくケアジャンルによって陳列されていることが望ましい。独自で調査した部門ごとの人気ランキングなどもわかるようになっているといいだろう。ここまではアットコスメのようなセレクトショップでも既に充実しているサービスだ。

ここから、よりパーソナルで充実した買い物体験に結び付けていきたい。スタッフはブランドから出向してきた美容部員ではなく、さまざまなメーカーのアイテムを熟知したビューティアドバイザーが常駐していて欲しい。ブランドに左右されるのではなく、お客様の肌悩みに応じて最適な商品を選んで勧められるアドバイザーだ。

肌解析3ができるカウンターでカウンセリングしながら、一人ひとりに合わせたコンサルティングや化粧品選びを手伝う専門家のサービス。そんなサービスがあればお客様はより自分に適したアイテムを、じっくり選ぶことができる。「買う&買わない」の判断にもより納得感が増すだろう。

美容の仲間づくりとして、来店者同士で情報交換し合えるコミュニティ運営もよいのではないか。アプリなどで誰でも気軽に参加することができるスキームをつくり、美容に関することを自由にコメントしていくことで、知識を補いあっていく場だ。

これらはSNSでも既に活発だと思うが、店舗側がまとめて運営することで様々な価値を生み出すだろう。メーカー側にも消費者のニーズを提供できるし、マーケティング戦略も立てやすくなる。販売時点のリアルな情報が入手できる利点もある。

このようにしてさまざまなコミュニケーション手段とシステム、売り場づくりでサポートしてくれる“スキンケアバー”。消費者のお買い物体験をより快適に、楽しく、充実させるサービスができれば…… なんて夢を膨らませてみたが、こういったサービスを日本で実現するためには、小売業とメーカーの協力体制が不可欠だと思う。商売は「作る」と「売る」が相乗効果を発揮して初めてうまくいくのは当たり前だが、独立した企業同士ではなかなか手を組むのは難しいのかもしれない。

しかし確実にお客様は、そんなブランドの垣根を超えたサービスを望み始めている。一人ひとりの肌悩みに対応していくには、サービスの形も変わっていくべきなのかもしれない。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕 登志子

“スキンケアバー”のような発想は、消費者の小さな違和感から生まれます。フォー・レディーは、その違和感をマーケティング資産と考え、企業様の次の成長戦略を一緒に考えます。

用語解説

  1. コスメセレクトショップ-特定ブランドに限定せず、複数メーカーの商品を編集・陳列する売り場形態。 ↩︎
  2. セフォラ(Sephora)-LVMHグループが展開する世界的コスメセレクトショップ。複数ブランドを横断的に取り扱う。 ↩︎
  3. 肌解析-専用機器を用いて水分量・油分量・キメなどを数値化するカウンセリング手法。 ↩︎

深掘りQ&A

なぜ今、「横断型売り場」が改めて必要なのでしょうか?

商品の数が増え、機能差も細分化された現在、消費者は「比較する力」を求められています。しかしブランド単位の売り場では、横断比較がしづらいのが現実です。情報過多の時代だからこそ、“整理して提案する場”の価値が高まっているのです。

メーカー側にとって、横断型売り場はリスクではないのでしょうか?

短期的には競合と並ぶ不安もあります。しかし長期的には、消費者のリアルな比較行動や評価データが可視化されることで、商品開発やポジショニング戦略の精度が高まります。競争の場であると同時に、インサイト取得の場にもなり得ます。

EC全盛の時代に、リアル店舗はまだ必要なのでしょうか?

必要です。ただし「販売拠点」ではなく「体験拠点」としての役割が強まります。肌解析や相談、比較体験など、リアルでしか得られない価値が明確になれば、オンラインとの役割分担はむしろ進みます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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