通販化粧品参入の成否を分ける4つの視点とは?

化粧品業界において、店舗販売と通信販売は同じ「美容」を扱いながらも、その仕組みや求められる戦略は大きく異なります。これまで店頭販売を主軸としてきた企業が、通販化粧品に参入する際には、押さえるべき独自のポイントがあります。果たして、どのような視点が成功のカギとなるのでしょうか――。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』4月19日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.47」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝店舗の「体験」を「情報」と「強い商品」で再現する戦略〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

店舗体験を通販でどう再現するかが鍵

化粧品会社 担当者

店舗販売の経験しかないけれど、通販化粧品に新規参入したい。通販化粧品のブランドを立ち上げ、子会社で販売するプロジェクトを進めています。既存の化粧品ブランドは店舗販売が中心だったため、通販ビジネスを研究しているところなのですが、通販化粧品を展開するにあたっての重要なポイントを教えてください。

まず、化粧品の店舗販売と通信販売の違いは何かを考えたい。 

両方とも化粧品を売ること、そしてお客さまの肌悩みに寄り添うことは同じだが、店舗の場合は対面接客なので、リアルなサービスが可能となる。一方、通信販売は、電波媒体や紙媒体、ウェブなどを通じて情報提供して販売するビジネスだ。そのため店舗はお客さまに様々な商品を体験していただき、美容部員のコンサルティングによって商品を購入していただくという特徴を持っている。したがって充実した品ぞろえが必要となる。

一方、通信販売は広告や情報発信によって商品を売るため、お客さまが受け取りやすく、分かりやすいメッセージを提供しなければならない。だから商品はラインアップするよりも一品に絞り込んで、シンプルな商品情報を流すことが効果的だ。

つまり、店舗では充実した品ぞろえが求められ、通信販売では、まず代表的な一品を売ることが必要不可欠になる。

「お試しセット」だけでなく“強い入り口商品”を持つ

通信販売の代表的販売手法として、多くの人は「お試しセット」を思い浮かべるに違いない。自分の肌に合うかどうかを、短期間に「お試しセット」で確認して、気に入った商品を購入するという手法は、かつてたいへん人気が高かった。ところが最近は、その後本製品に移行する率がずいぶんと低くなっている。  

スキンケア商品は「試したい」というニーズがとても高いので、「お試しセット」は必要不可欠だが、新規顧客を獲得するためには、「お試しセット」だけではなく「強い入り口商品」も開発しなければならない。その意味では「オールインワン化粧品」は、通信販売化粧品業界でのヒットを象徴する「強い入り口商品1」である。 

このようなユニークでブランドスイッチを可能にさせる力のある商品を開発することはとても重要で、通信販売は一品でも大ヒット商品を作ることができる夢のあるビジネスだといえる。

データ活用と顧客育成で強い通販ビジネスを築く

通信販売は「情報で売る」ためターゲット設定を明確にしなければならない。そして、それに適したメディアを選定するなど、情報伝達の方法を熟考すべきだ。また、通信販売はデータビジネスなので、顧客データを徹底して収集し、しっかり分析している企業は強くなる。データをフル活用して、テストマーケティングをしながら、施策の精度を上げていけば、売るためのゴールデンルールを発見することができる。通販の強みであるデータを販売力にぜひ生かしてほしい。

もうひとつ重要なポイントは、顧客育成2力を高めることである。

店舗でお客さまの声に耳を傾けるように、通信販売でもお客さまの声を聞くシステムを作りたい。アンケートを取る、ホームページに意見を書き込むコーナーを設ける、会報誌に声を集めたコーナーを作る――など方法は様々。店舗がなくても、情報の空間上でお客さまに参加していただく場を設けることは可能だ。 

そして、お客さまの肌悩みや個別のニーズに応えられる体制を整えることが必要になってくる。同時に、座談会やモニター会など、お客さまに参加していただく機会を作ってみるのも有効だ。お客さまがワクワクできるサロンのような場を作って、体験の機会を演出できれば、継続的にファンになってもらえるに違いない。

店舗でやっていることを、いかに通販でできるかが成功の別れ道ともいえるだろう。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

「通販に挑戦してみたいけれど、どう進めればいいのだろう?」――そんな時は、フォー・レディーにお声がけください。店舗で培った強みを活かしながら、通販の成功につながる仕組みを一緒に作ってまいります。

用語解説

  1. 強い入り口商品-ブランドを初めて利用するお客さまが購入しやすく、印象に残りやすい商品。オールインワン化粧品のように「これ1つで完結する」商品は代表例。 ↩︎
  2. 顧客育成(CRM)-一度購入したお客さまを、リピーター・ファンに育てていく取り組み。会報誌やモニター会、アンケートなどを通じてコミュニケーションを深めることが中心。 ↩︎

深掘りQ&A

通販化粧品では、なぜ“一品主力”が重要なのですか?

店舗と違い、通販では商品を並べて比較してもらうことができません。そのため、広告や情報だけでお客さまの心をつかむ「看板商品」が不可欠になります。まずは一品に絞り込むことで、情報もシンプルに伝えられ、ブランドの存在感を強めることができます。

データ活用というと難しそうですが、具体的には何をすればいいですか?

最初は購入履歴やアンケート回答を集めるだけでも十分です。それをもとに「どの年代がどの商品を好むか」「どの広告からの購入が多いか」を分析し、広告や商品訴求の改善につなげます。小さな分析から始めて、徐々に精度を上げるのがコツです。

店舗のように“体験”を提供できないのが不安です

通販でも体験の場を演出することは可能です。座談会やモニター会、お客さまの声を集めた会報誌などを通じて「一緒にブランドを育てる」仕組みを作れば、お客さまの参加感が高まり、ファン化につながります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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