“人手不足”をチャンスに変える——現場支援が教えてくれること

人手が足りない——。そう嘆く声があちこちで聞こえますが、現場を支えるために本社スタッフが動き出した企業もあります。大変な状況の中にも、組織を強くするヒントが隠れているかもしれません。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』6月1日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.92」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝Wワークから生まれる「働く楽しさ」と業務改善の仕組み〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

人手不足は永遠の課題。だからこそ、業務改善のチャンスに

通販化粧品会社 担当者

コロナ収束後も、飲食業界などからは「お客さまは戻ってきたが働く人が戻ってこない」と聞こえてきましたが、わが社にも人手不足の影響が出ています。配送センターやコールセンターは人手が足りません。本社の人間がサポートに入っていますが、いつまで続くか心配です。

あらゆるところで人手不足が大きな問題になっています。通販企業でも、工場、配送センター、コールセンター、ドライバー問題などが山積みになっています。「注文があるのに出荷できない状態」になっているところもあるようです。

化粧品通販の会社でも、本社の企画や総務のスタッフが、配送やコールの「現場支援」に出かけることが多くなってきたような気がします。かつては経験の浅い社員に現場の経験を積ませるための業務として配属されているケースもありましたが、現在は自分の業務をこなしながら、支援業務としてダブルワークをしているような状況です。

今や現場の人手不足は予断を許さない状況なので、本社のバックオフィススタッフ(企画や総務など)のサポートなしには成り立たないのが現状のようです。あらゆる業種がそんな状況なので、仕方がない側面もありますが、終わりが見えないので、本社業務がおろそかになることで、何か問題が発生するのではないか、あるいは施策を考える企画スタッフも、人手がかからないことを優先して、お客さまサービスがおろそかになるのではないか、などの心配は尽きません。何よりスタッフのモチベーションが下がって、サービス品質が落ちてしまうことだけは避けたいです。

一時対応で終わらせず、仕組みにする発想を

とはいえ、すぐに解決策は見つからないので、当面のダブル業務は仕方がないと考えられます。ただしサポート業務を有意義な業務につなげる工夫は必要だと思います。

一つは、普段と異なった業務を担当することになるので、新鮮な目で現場業務を見直すことです。もちろん現場には専門職のプロが多くいらっしゃいます。にわかスタッフには、業務のスピードや段取り、熟練度は全く追い付きません。

ただし現場業務の素人だから気付く疑問もあるはず。あるいは企画者の目線だからこそ現場業務の問題点にも気が付くかもしれません。

ある会社では、コロナ禍のときに旅行関連会社の社員を何百人単位で受け入れたことがありますが、異業種同士が一緒に仕事をすることで、さまざまな気付きがあったようです。このように、支援業務を「気づきと発見の場」として、その後の改善改革に結び付けられるような仕組みを作れば、ダブルワークも楽しくなるのではないでしょうか。「改善プロジェクト」などを立ち上げても良いでしょう。

二つ目は、ダブルワークを一時しのぎではなく、ルーティン化するのはどうでしょう。私事ですが、伯父が地方都市で創業した百貨店は昔から販売員がダブルワークでした。例えば上層階の家具や雑貨売り場の社員は、夕方暇になると地下フロアーに降りてきて、エプロンを付けて総菜売り場を手伝うという具合です。

この百貨店は地元密着型で地方百貨店が苦境に立たされたときも社員の結束力が強く、今でも業態転換もせずに営業しています。この例は、創業期の家業の延長線のような運営の事例です。時代とともに家業から会社組織になり、業務は労働になって、各々の専門職が出てきたことは良いことですが、今日では「全体を俯瞰してみる」ことが少なくなってきたような気がします。

改善を楽しむ工夫が、組織を強くする

最近は人手不足に拍車が掛かって、さらに業務が細分化され、本来シンプルだった業務が複雑化している例もあるように感じます。ダブルワークをその改善のために、活用できないでしょうか。

例えば専門化しすぎた業務を新たな視点で見ることで、思い込みを排除するキッカケに。あるいは細分化された業務を俯瞰で見られる経験を養い、トータルに考えられる人材の育成にも活用するなど。人手不足は経営者目線で考えれば、人材を育てるチャンスとも言えます。単なるお手伝いのダブルワークは苦痛でしかないので、改善策を考える楽しみを作って、それを仕組み化することが必要だと思います。

例えば改善策アイデア募集をセットで実施するとか、さまざまな業務をサポートした社員には「サポートポイント」を付与して評価するとか、まずは楽しくイベント化するのも一案だと思います。

人手不足をダブルワークでしのいでいる間に、新たな仕組みで、適正な業務量を楽しみながら仕事ができるように工夫するべきでしょう。社員が現場業務を楽しんで行っているかどうかは、商品を受け取ったお客さまにはすぐに伝わります。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

現場の悩みから、次の成長のヒントを見つけるために、フォー・レディーは、女性視点の発想とチームの力で、人手不足の現場を支えるアイデアや、業務を前に進めるサポートを行っています。

深掘りQ&A

「ダブルワーク」は本来、負担ではなく“経験の場”と考えるべき?

そう思います。ダブルワークを“応急処置”として捉えると疲弊しますが、「自分の業務をより良くするための現場体験」として見ると、学びに変わります。たとえば、普段お客さまと直接接しない企画職がコールセンターに入ると、「なぜこの質問が多いのか」「どんな言葉が響くのか」に気づける。その経験は次の施策設計に必ず活きます。

人手不足の今、企業に求められている本当の“工夫”とは?

「減らす工夫」ではなく「つなぐ工夫」です。人を補うのではなく、情報やアイデア、チームをつなぐことで仕事を効率化し、前向きな雰囲気をつくる。たとえば部署を越えてアイデアを共有したり、“お互いさま”の精神で支え合う文化を育てることが、最終的に生産性を上げる近道になります。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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