数字とテストに振り回されない!通販事業を強くする“戦略軸”とは

テスト施策を繰り返しても成果が安定しない。毎回の反応をもとに改良を重ねているはずなのに、思うように伸びない—。通販化粧品企業の多くが、この“テストの迷路”に悩まされています。なぜ結果を追うほどに課題が増えてしまうのか。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』2月27日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.112」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝他社事例・数字・調査の落とし穴とLTV重視の克服法〟

忙しくてなかなか文章を読む時間がない方向け、スキマ時間に聞くだけで学べる音声版をご用意しました。

マーケティング戦略の不在を克服して、基本戦略をブレさせない!

通販化粧品会社 担当者

新規獲得も既存リピート育成も、なかなか良い成果が出せていないのが現状です。テスト展開をいろいろとやってみるのですが、そのたびに新たな課題が出てきて、その対応に追われており、根本原因にアプローチできていないのが問題だとは思っているのですが、手が回らない状況です。

さまざまな通販化粧品会社さまのお話をお聞きすることが多いのですが、時々「おや?」と思うことがあります。その一つが、他社の施策情報を取り入れて、当たり企画を真似したがることです。

もちろん他社の情報を知ることはとても大事なことです。しかしそれは単純に真似するためではありません。他社と自社は、商品も異なれば、お客さまも異なり、訴求内容も、コンセプトも異なるので、単純に同じことをしても当たるはずはないのです。そのため情報はもっと俯瞰で見た大きなくくりで捉えるべきで、単純に真似することは邪道と言えます。

自分たちの主張やコンセプトを、自信をもって前面に打ち出すことこそ最も大事なことなのです。つまり、真似る前に、自分たちの「強み」をアピールすることが大切だと思います。一時の施策だけを真似て、短期間の成果を上げることよりも、もっと長期的視点で将来の価値を上げるために、自分たちの「強み」をアピールし続けた方が、強い勝者になれるのです。

テストの数字に頼りすぎない。数字の裏に「人の感情」がある

またいつも私が不思議に思うのは、テスト施策のリターンによって方向性を決めるという「テスト展開」というキーワードです。この背景には「評価は数字次第で決まる。その後の方針は結果次第」という進め方です。もちろん通信販売は統計のビジネスなので、数字は大きな判断基準です。ただし数字によってすべてを決めるとなると、それは少し間違った方向に行く危険性があると思います。

数字は誰にでも共通の分かりやすい評価です。しかし私たちが化粧品を買う時は、数字で表せる現象ばかりを頼りにしている訳ではありません。

なんとなく気分が良かったからとか、勢いで買ってしまったとか、数字にはできない感情的な、動きやモノ・コトにも大きく左右されます。そのため、数字のみを判断基準にしていると大きな間違いを犯すことがあります。それを組み込んで戦略を立てるのがマーケティング戦略の役割なので、数字が決めてくれるのであれば、何も検討する必要がなくなってしまいます。「数字だけで判断しない」が、通販マーケティングの鉄則だと思います。

戦略の精度を高めるカギは、「お客さま理解の深さ」

また、とても不思議な現象として、通販化粧品会社さまで「お客さま調査をしたことがない」とお聞きすることがあります。「お客さまの声は、毎日コールセンターに入ってくる注文の時のお電話で聞いているため、お客さまについては十分に知っています」というのが論拠になっていることも多いようです。

これはとても重大な思い違いをしていると言えます。お客さまが注文時点で言ってくださるのは、クレームか、あるいはお気に入り商品を褒めてくれる場合などに限られます。もっとお客さまの生活背景を知って、消費行動を予測できるような、ライフスタイル全般の「調査」ではありません。それでは大きなマーケティング戦略を定めるための情報が不足してしまいます。

販売現場でヒアリングできる枝葉末節の情報は、具体的施策を考える時に役立つ調査情報なので、大きな方向性を定める調査とは別に考えないといけません。お客さま調査の役割を間違えると、大きな損失を生みだす要因になってしまいます。

LTV拡大は“目的”ではなく、“結果”

最近よく聞くのは「新規獲得から、LTVの拡大とロイヤル客の育成へと舵を切った」とのお声です。方針転換の意向を示される会社が増えています。これは本来商売の基本のキのようなものです。満足していろいろ買ってくれる上得意先を増やすことは、ほとんどのビジネスの原則のようなものです。特に消耗品のビジネスではなおさらです。

誰がいつ「通販化粧品は新規獲得が運命を左右する」というようなムードを作ったのでしょうか?そもそもその考え方が大きな間違いなのです。そんな一過性の成功を目標にしていたのでは、長期にわたっての成功を導くことはできません。

私は現在の傾向については、「やっと元に戻って、本来のビジネスのあるべき姿になってきた」と歓迎すべきだと考えています。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

テストを重ねても成果が安定しない背景には、“お客さま理解の浅さ”があります。フォー・レディーは、グループインタビュー1や定性調査で数字の裏にある「お客さまの気持ち」を可視化。その気づきが、ブレない戦略とLTV向上の起点になります。

用語解説

  1. グループインタビュー-複数の参加者に集まってもらい、自由な意見交換を通じて消費者の本音や価値観を探る調査。フォー・レディーでは特に“生活者目線”を重視し、商品やブランドへのリアルな声を引き出す。 ↩︎

深掘りQ&A

テスト施策をやめた方がいいという意味ですか?

いいえ。テストは必要です。ただし、テストは「戦略の検証手段」であって、「方向性を決める羅針盤」ではありません。 戦略の土台がないままテストを繰り返すと、数字に振り回されてしまいます。まずは“何を確かめたいテストなのか”という目的を明確にし、戦略の一部として位置づけることが大切です。

戦略を立てると、逆に動きが遅くなりませんか?

戦略を持つことでむしろ判断が速くなります。ブレない軸があると、テスト結果や流行施策に右往左往することがなくなり、判断基準が明確になります。フォー・レディーの支援先でも、「意思決定が早くなった」「施策の一貫性が保てるようになった」という声が多く聞かれます。

数字と「お客さまの声」、どちらを優先すべきですか?

どちらか一方ではなく、“両輪”として扱うことが理想です。 数字は過去の結果を、声は未来のヒントを教えてくれます。フォー・レディーでは、データ分析と定性調査の両方を組み合わせて「数字の背景にある気持ち」を読み解き、実効性のある戦略を導き出します。

お客さま調査をしたことがなくても、今から始められますか?

もちろん可能です。大がかりな調査から始める必要はありません。まずは小規模なグループインタビューやアンケートなど、気軽にできる形で“声を聴く”文化をつくることが第一歩です。 フォー・レディーでは、テーマ設定から質問設計、分析まで一貫してサポートしています。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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