「“わかっているつもり”がすれ違いを生む」――シニアの本音に近づくには

シニア世代1向けの化粧品を扱っていても、現場で働く社員は20〜30代が中心。年齢も価値観も異なる中で、「きっとこうだろう」という思い込みが、知らず知らずのうちにお客さまとのすれ違いを生んでいるかもしれません。シニアの心に届くコミュニケーションを育てるには?今回のコラムは、『日本流通産業新聞』8月26日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.74」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

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データではなく“体感”でつかむ。シニア理解の第一歩は接点づくりから

通販化粧品会社 担当者

弊社はシニア世代向けの化粧品を通信販売しています。新聞広告、折り込みチラシ、インフォマーシャル、他社同梱、シニア向け雑誌などが主な新規獲得メディアです。問題は社員が20~30代と若く、シニア層の美容や生活などの価値観をイメージできていないことです。そのためお客さまとのコミュニケーションにズレが生じているような気がします

特に新聞やチラシ、インフォマーシャルなどを新規獲得の入り口にしている通販化粧品会社の顧客は、ほとんどがシニア世代です。ところが運営している社員たちは意外に若く、ご相談のようにコミュニケーションにズレが生じてしまうことも、しばしばあるようです。それだけではなく、商品開発でもちぐはぐな品ぞろえになってしまうようなことも起こっています。

このような現象が起こる理由は、やはりシニア世代向け通販化粧品の企画や販売に「シニア世代の人が関わっていない」ことが大きな原因ではないでしょうか。

シニア世代向けの化粧品ビジネスにおいて、その世代の女性たちが関わっていないと、彼女たちの今の生活の実情や過去の美容体験を把握するのが難しくなります。そのためシニアになって初めて体感する「肌の実感」もなかなか共有できません。販売に欠かせないうれしいサービスや、世代の文化が表れる”言葉遣い”も適切な表現ができにくくなります。つまり「気持ちを掌握できなくなる」のではないかと思います。

現在の日本では、一部の人を除いて、なかなか60歳以上の女性が働き続けるのは難しいと思います。もちろんご本人たちはまだまだ元気なので、もっと社会に出て活躍したいという思いはあるはずです。彼女たちの知識や労働力を生かす社会の仕組みがないというのが現状です。

そもそもシニア世代とは、個人差もありますが60代後半~70代、80代になって、初めて本人も「シニア」という言葉を受け入れているような気がします。それだけ社会の高齢化が進み、現役の時間が長くなっているのではないでしょうか。

「シニア世代」は一括りにできない多様な存在

また、「シニア世代」とひとくくりで捉えられることにも違和感があります。シニア層といっても、60代と80代では生活や経済環境、体や肌の状態は全く異なります。

例えば収入だけを考えても、年金だけに頼った生活なのか、その他の収入の手段があるのか、資産状況はどうなのかなど、それぞれの懐具合によって、ライフスタイルや消費行動は大きく異なっているはずです。

同じ年齢の人でも健康状態はさらに差が出ます。寝たきり状態の人から、現役世代をしのぐほどアクティブに体を動かしている人もいます。美容と関連の深い肌悩みに至っては、そもそも自らの肌状態を意識しない人や、気付いてはいるけど「年寄りだから仕方がない」「年相応」と諦めている人もいるようです。

さらに興味関心の分野では、もはやグルーピングできないほど、千差万別になるのではないでしょうか。

一般論ではなく、“自社のシニア像”を把握せよ

このようにさまざまな価値観を持つシニア世代のお客さまに向けて、誰にでも役立つ情報を発信するのは極めて難しいことです。この世代の方々に本当に喜んでもらうためにも、もっと自社のお客さまの声に耳を傾ける努力と習慣を作ってほしいと思います。

弊社ではこれまで定期的に得意先のお客さまを呼んで、グループインタビュー(お客さま座談会)を行ってきました。その目的は、商品についてはどのように使っているか、使用感はどうか、使用後の実感はどうかなどですが、情報提供やコミュニケーションについても、具体例を挙げて細部まで突っ込んだヒアリングしています。それが「シニア世代が関わっていないシニア向け化粧品の弱点」を払拭(ふっしょく)する方法として有効だと考えているためです。

コロナ禍の中にある今も、人数を絞って、感染予防対策を徹底しながら直接対面でヒアリングを実施しています。今回のコロナ禍で、通販化粧品は店頭販売に比較すると大きな落ち込みもなく、堅調ぶりを見せていますが、通販といえども直接お客さまの肌を見て、直接ご意見を伺う「お客さまヒアリング」の大切さを実感しています。

これから若い社員たちに、シニア世代を理解してもらうためには、自社のシニア世代のお客さまに直接お話しを聞き、直接会える機会をもっと増やすべきだと思います。そうすると、一般的な、あるいは他社のシニア世代ではなく、自社のシニア世代のお客さまの特徴や個性を的確に掌握できるようになり、差別化戦略も取り入れやすくなります。アフターコロナの戦略をここからスタートしてもよいのではないでしょうか。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、女性たちのリアルな声から商品やコミュニケーションのヒントを導き出します。「自社のお客さまを本当に理解する」ことこそが、ブランドを育てる第一歩。私たちは、シニア世代をはじめとする生活者の本音を丁寧にすくい上げ、企業とお客さまの“関係づくり”をお手伝いします。

用語解説

  1. シニア世代-一般的には60歳以上を指しますが、実際には「自分をシニアと感じる年齢」には個人差があります。今の60〜70代女性は現役感覚が強く、美容やファッションへの関心も高いのが特徴。年齢だけでなく、健康状態や収入、生活環境などによって価値観は大きく異なります。 ↩︎

深掘りQ&A

シニア世代を理解するには、どんな情報を集めればよいですか?

デモグラフィック(年齢・性別・地域など)だけでなく、 “価値観・時間の使い方・美容や健康へのこだわり”といったライフスタイル情報を重視しましょう。 たとえば「どんな時に不安を感じるか」「誰に相談するか」「何を信頼の判断基準にするか」など 心理的なデータこそが、コミュニケーション設計に直結します。

「お客様参加型企画」は、どんな準備から始めればよいですか?

まずは既存のCRMデータを見直し、どんなお客様がブランドを支えているかを把握することが第一歩です。そのうえで、興味やライフスタイルに合わせて小規模でもよいので参加の場を作りましょう。例えば「愛用者インタビュー」や「使用実感アンケート」など、“話を聞かせてください”から始めるだけでも、お客様のロイヤル化につながります。

若い社員がシニアの心理を理解するために、どんな工夫ができますか?

社内で“疑似体験”の場をつくるのも有効です。 老眼鏡や重りを装着して生活を体験する「シニア体感ワークショップ」や、 シニア女性の1日の行動を時系列で追う「ペルソナ日記分析」など。 数字では見えない“暮らしの実感”を体験的に学ぶと、発想の角度が変わります。

シニア女性に向けたメッセージ表現で注意すべき点は?

「若返る」「アンチエイジング」などの言葉は、一部の人に抵抗感を与えることがあります。 代わりに「今の自分をもっと心地よく」「肌がうれしい毎日」など、 前向きで“共感される言葉”に置き換える工夫をしましょう。 世代を問わず、“自分を尊重してくれる表現”が信頼を生みます。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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