化粧品通販で推奨使用量が伝わらない理由と改善策

化粧品通販では、長年の愛用者でさえ“誤った使い方”をしていることが多く、満足度や継続率の低下につながっています。背景には、企業発信への警戒心や形骸化した伝え方があります。正しい使用量・使用方法を、飽きさせず伝え続けることが、信頼とロイヤル化の鍵――今回のコラムは『週刊粧業』12月4日号掲載「激変するコスメマーケット 第36回」です。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝商品価値に直結する正しい“推奨使用量”の伝え方

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なぜ推奨使用量は浸透しないのか

弊社ではグループインタビューや顧客イベントを企画することが多いが、つくづく化粧品会社からの情報がきちんとお客様に伝わっていないと思う。特に驚くことが、メーカーからの推奨使用量や使用方法がお客様にまったく浸透していないことだ。

長年愛用してくださっているお客様でも、メーカーが推奨する使用量や使用方法をきちんと守っている人はごく少数である。もちろん、各社とも一番効果的な使い方を広告物やパッケージなどで伝えてはいるが、愛用者ですら「よく見ていない」ことが多い。

各社とも効果が最大限に出る使い方を推奨しているものの、お客様がそれを守らなければ満足度の低下につながり、早期の離脱を招いてしまう。

そのことに会社側はもっと危機感を抱いてもよいのではないかと感じている。

警戒心を招いた“企業都合”の歴史

なぜ推奨使用量を守っていただけないのか。

お客様の声を聞くと、「もったいないから、少しずつ使おうと思ってしまう」「会社の都合で多く使わせようとしているだけでは?」「以前の習慣がしみついていて、なかなか変えられない」という意見が多い。これはかって化粧品会社が「お客様に何とか買わせよう」としてゴリ押し販売をした歴史や、「使い方は他社と同じなので改めて強調しなくても、お客様は知っている」という安易な思い込みが招いた結果でもある。

強引な販売活動によってお客様は「企業は自分たちにとって都合のいい情報だけを言っている」と警戒心を抱いてしまい、推奨する使用量を守っていただけない‥‥その結果満足度が低下してしまうという悪循環は、お客様に寄り添わず会社都合で販売してきた時代のツケが回っていると思う。

信頼を取り戻す“カウンセリング発想”

お客様の警戒心を解くには、会社側からの正しいメッセージを辛抱強く伝えていくしかない。推奨使用量の啓蒙活動はやりすぎるぐらいで丁度よいのではないか。お客様に伝える方法も常に同じではなく、飽きさせないための工夫が必要である。

たとえば推奨量の1回分を使いきりサンプルを渡し、使用量の感触を覚えてもらう、推奨使用量を測れるスパチュラなどを付属する、読み物や同梱ツールで正しい使用量を推奨する記事を書くといった方法だ。

また推奨使用量や使い方は、お客様の年代や季節、お肌の特徴によっても異なるはずだ。それを正しくアドバイスしながら、一人ひとりのお客様に満足いただける使用量と使い方をアドバイスすることも化粧品会社の役割だと思う。

老舗の化粧品会社は長い間、販売最前線で美容部員たちが、お客様の肌悩みを聞き、使用量と使い方をアドバイスしながら固定客を掴んできた。今日では、お客様が自由に好きな商品をセルフセレクション1で購入することが多くなった。しかし時代が変わっても化粧品販売の基本は、お手入れ方法をアドバイスしながら販売する「カウンセリングビジネス2」である。

対面する機会が少なくなっても、お客様に寄り沿いもっとアドバイスできたら、使用量や使い方の問題は解決していくのではないか。

そしてお客様が効果を実感し、満足していただければ会社への信頼もゆるぎないものになっていくはずだ。お客様に正直に正しい情報を提供し、そのためにコストをかけ、最終的にお客様のためになることをやっていく企業がこれからは成功していくだろう。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

フォー・レディーは、通販ビジネスを「点」で捉えるのではなく、マーケティングの視点を取り入れながら「線」で捉え、お客様調査から顧客育成まで通販事業を一気通貫でサポートすることが最大の特長です。

用語解説

  1. セルフセレクション-販売員の助言を受けずに、顧客自身が自由に商品を選ぶ購買スタイル。ドラッグストアやオンライン通販など非対面販売に多く見られる。 ↩︎
  2. カウンセリングビジネス-販売員(美容部員など)が対面で肌状態や悩みを聞き取り、最適な商品や使用方法を提案する販売形態。単なる販売ではなく「お手入れ指導を通じた信頼構築」を重視する点が特徴。 ↩︎

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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