知らない間に変わる“お客さま”とブランドの関係

新規顧客を増やそうと媒体やキャンペーンを変えたはずが、気づけば集まるお客さまのタイプも、ブランドの印象も、どこか違っていた――。通販化粧品の世界では、そんな“変化”が知らぬ間に起きています。その分岐点は、ほんの小さな選択から始まります。今回のコラムは、『日本流通産業新聞』7月28日号に掲載された「強い通販化粧品会社になるために 基礎講座Q&A vol.83」です。ぜひご覧ください。

日本流通産業新聞
通販・ネットビジネス・健康食品・美容業界などの最新動向を専門的に取り上げる業界紙です。実務に直結する情報を多角的に発信し、多くのビジネス関係者に支持されています。

忙しい人向け|対談で学ぶ〝狙った顧客と違う層が集まる要素とブランド戦略の落とし穴〟

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媒体も特典も、“誰を呼ぶか”を決めるスイッチになる

通販化粧品会社 担当者

新規顧客の獲得がなかなか難しくなったので、当初の予定を変更して媒体経費の安い新聞広告にシフトし、初回特典は大幅な値引きで、定期顧客獲得を視野にキャンペーンを展開しました。しかし、その後は2回目以降に継続するお客さまが少なくなってしまいました。

通信販売の新規顧客獲得は、最初の媒体次第で客層が大きく変わることはすでにご承知の通りです。

例えば、新聞紙面に出稿すると、現在ではほとんど60代から70代のシニア層しか集客できません。若い世代は新聞を購読していない世帯が多いので当然です。新聞でもチラシと紙面では少し客層が異なります。紙面は新聞のロイヤルティーが生まれるので、やや知的レベルの高い層で、世帯年収も同世代の中ではやや高い方に。チラシの場合はもう少し庶民的なお客さまになります。テレビのインフォマーシャルの場合は、もっとざっくばらんなお客さまが多くなりがちです。

新規顧客獲得に向けて最初に販売する商品でも客層は変化します。例えばオーソドックスなオールインワンタイプの商品は、手軽さや便利さを支持している人や、あまりお手入れに時間を掛けたくないという人が多くなる傾向があります。逆に美容液やパックなどのスペシャルケアは、美容意識の高いお客さまが集まります。ファンデーションだとメークをするお客さまなので、どちらかというと外に出かける必要があったり、人に接する機会が多かったりする人になります。

オーガニック商品や無添加化粧品は、肌トラブルを抱えた人や自然派志向の人が多くなります。また、特典やキャンペーンなどの施策によっても客層は大きく変化します。例えば、商品内容やコンセプトではなく初回の大幅割引に引かれて購入してくださったお客さまは、なかなか正価で継続してくれることはないでしょう。1個買ったらもう1個ついてくるキャンペーンも、実質半額キャンペーンなので、こちらもよほど商品が気に入らない限り、正価で買い続けてくれることはないでしょう。

つまり、お客さまはどんなところに出店しているのか(媒体)、どんなモノ(商品)なのか、いくらで買えるのか(価格)に大きく左右されます。そこに商品の価値を高めるコンセプトや主張、商品の狙いや目的などをきちんと織り込んでおかないと、想定しないお客さまの集団になってしまう場合があります。

「売る方法」を変えると、「選ばれる理由」まで変わる

いくつかの事例があります。

ある女性が仕事のストレスから肌トラブルに陥ってしまい、それを克服するために苦労して化粧品を開発しました。そこで自分と同じように肌トラブルに悩んでいる女性たちのために、小さな通信販売会社A社を立ち上げました。最初は知人に分けているような状況でしたが、お客さまにはたいへん感謝されました。そこでもっと多くの人に喜んでもらおうとECで本格的に販売を始めようとしたところ、ECのプロから、「他社との比較で負けてしまう」との指摘を受け、初回から「まとめ買い」を訴求し、大幅割引を実施しました。

また、最初に作ったオールインワン美容液ではなく、比較的価格も安く評価も良かった洗顔商品を入り口商品に変更しました。しかし、いつまでたってもお客さまは定着せず、LTVも低いままです。

そんなとき、弊社がお客さま調査を実施し、ロイヤル顧客、離脱客などに話を聞いたところ、本当にお客さまになってほしい肌トラブルに悩んでいる人は離脱し、割引で洗顔商品を購入してくれているお客さまだけが残っていたのです。A社の彼女は、「私が本当に作りたかった化粧品はこんなはずではなかった」と反省することしきりでした。

また、順調に売り上げを伸ばしてきたB社は、美容液を入り口商品にして、ECを主体に販売していました。成分も話題性のある確かなもので、時々美容誌などにも取り上げられ、美容意識の高い40代のお客さまが多く購入してくれました。

しかし、さまざまな美容液の乱立でEC市場が過当競争に陥り効率が落ちたため、新規顧客獲得に向けた広告を新聞広告に変えましたが、いつの間にか、注文客単価は下がり、LTVも下がってしまいました。何よりもお客さまの年代が10歳近く上がってしまったのです。商品も反応の良いオールインワンに変えてしまっていたので、改めてお客さま調査を実施したら、美容意識が低いシニア層が多くなっていました。

新しいブランドでも、“お客さま構造”が変わらないことも

一方、新聞広告をメインに新規顧客獲得を展開してきたC社は、シニア層からは圧倒的な支持を受けています。会社が大きくなるにしたがって、シニア層向けばかりでは将来が不安ということで、若い層を取り込むために30~40代向けの新ブランドを立ち上げました。

最初はECを中心にしていたのですが、なかなか思うような結果が得られなかったので、もともと得意の新聞広告で集客を始めました。その結果、再びシニア層が多くなってしまい、メインブランドのお客さまも移行してしまうような勢いです。せっかく新ブランドを立ち上げても、新しい客層を獲得できず、単に社内でお客さまを取り合うような結果になってしまいました。

このように、通販化粧品の販売は、媒体、商品、施策&価格が女性たちの気持ちやニーズにフィットするように設計しないと、想定外のお客さまが集まってしまうことがよくあります。

株式会社フォー・レディー 代表
鯉渕登志子

どんなに良い商品でも、届く相手が変わればブランドは変わります。大切なのは、「誰に届けたいのか」を見失わないこと。フォー・レディーは、企業の想いを軸にした“お客さまとの再設計”をお手伝いします。

深掘りQ&A

なぜ媒体を変えると、お客さまの層まで変わってしまうのですか?

媒体にはそれぞれ「見る人の生活習慣」や「情報との距離感」があります。新聞を読む人、SNSで情報を探す人では、年齢だけでなく価値観も異なります。たとえば新聞広告では“安心感や信頼性”を求める層が集まりやすく、SNS広告では“共感や話題性”を重視する層が反応しやすい。同じ商品を紹介しても、「何に惹かれて買うか」が変わるため、結果として客層が変化します。

 想定外の層が集まってしまった場合、どうすればいいのでしょう?

「価格」「メッセージ」「接点」の3つを見直すのがポイントです。まずは価格帯と特典が“誰のための設定か”を再確認し、次に伝えたいメッセージ(共感ポイント)が本来のターゲットに合っているかを点検。さらに、会報誌やSNSなど既存顧客との接点で、ブランドの想いや世界観を丁寧に発信し直すことで、時間をかけて軌道修正することができます。

はじめから“ずれない顧客設計”をするには、何が大事ですか?

商品や広告を作る前に、「誰のどんな悩みを解決したいのか」を言葉にすることです。ここを明確にしておけば、媒体選定も特典設計もぶれにくくなります。フォー・レディーでは、グループインタビューなどを通して「理想顧客のリアルな像」を掘り下げ、“ブランドの想い”と“お客さまの現実”を一致させる設計をお手伝いしています。

ABOUT US
株式会社フォー・レディー 代表 鯉渕登志子
日本大学芸術学部卒業後、アパレル業界団体にてファッション経営情報誌の編集に携わり、カネボウファッション研究所を経て、1982年に株式会社フォー・レディーを設立。これまで手がけた化粧品・ファッション通販企業は180社を超えます。一貫して「女性を中心とした生活者ターゲット」に寄り添い、消費者の実感から発想することを信条としています。 「自分が使って心から納得できるものを届ける」というポリシーのもと、コンセプト設計からクリエイティブ制作までを一貫して行っています。また、日本通信販売協会などでの講演実績も多数あり、生活者視点のマーケティングを広く発信しています。

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