化粧品の広告制作を手がける中で、商品企画から関わる機会が増えています。ところが、多人数のモニター意見を重視しすぎると、角が取れた「平均的な商品」になりがちです。成熟市場の通販化粧品においては、万人受けよりも「特定の人に強く支持される個性」が必要です。ターゲットを絞り、明確な世界観や使用実感でファンを生むことこそ、これからのブランドづくりの鍵ではないでしょうか。今回のコラムは、「週刊粧業」2 月26日号に掲載された「激変するコスメマーケット 第38回」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。
広告制作から広がる“商品企画”の役割

弊社は通販化粧品の広告制作をメイン業務としている会社なのだが、化粧品の広告づくりは訴求ポイントと密接に関わるので、最近は商品企画から関わらせていただくことが多くなった。そのため、お客様の「ペルソナ」の設定から「肌質タイプ」や「肌悩み」の予測、成分の選定に至るまで意見を求められることもある。
その後はひたすら処方研究の専門家たちからサンプルが届くのを待ち続けて、何度も何度も試用モニターとなって評価を繰り返す。十分にミーティングして開発を進めたつもりなのに、なかなか思うような試作品はできあがってこないのが現実だ。一回一回の試用モニターで一喜一憂することになる。
また、前回指摘した改善点が良くなったかと思えば、別の問題点が浮上したりして、なかなかバランスが取れない。
多数意見が“無難な商品”を生むジレンマ

また、モニターは複数人数でやるのが普通だと思うが、人数が多くなってみんなの意見をまとめようとすると、ますます角が丸くなって面白みのない商品になりがちだ。たぶんこれが「シェアの高いマス商品=コモディティ型商品」ができる原因なのかも知れないと思う。
特に一定のレベルの品質に達した後は、多人数のモニター結果を重視すればするほど、角が丸くなって面白みのない商品になってしまうような気がする。たとえば私は、年齢の割りにさっぱりした感触が好きで、同世代と一緒にモニターをすると、「好みが若いので、シニアの乾燥肌には向かない」と言われてしまう。
これでも若い頃よりはずっと乾きやすい肌になっているのだが、「一般の年齢的平均値」ではないらしい。このように多くのお客様に支持を得られる商品を開発していこうとすると、年齢的平均値に合った無難な商品になってしまうこともある。
これではお客様一人ひとりが「自分の肌で実感しないと買わない!」と言っている時代に、他社と差別化された、本当に満足してもらえる商品を提供することができるのかどうか疑問を感じる時がある。
正直なところ、私には私の好きなテクスチャーもあれば香りもある。それでいて私の肌悩みを解決してくれる商品であってほしいと思っている。他の同世代の人が好みかどうかは関係ない。そのように考えると、本当に1人のお客様に支持される化粧品を提供するためには、そのお客様にはすごく好かれ支持されるが、他のお客様には全く嫌われるようなモノづくりをしなければ、圧倒的な支持を得られることはないのではないか?
成熟市場にこそ求められる“個性派ブランド”

化粧品の1ブランドのシェアが高く、こんなに多くの商品がリリースされていなかった時代は、コモディティ型商品が多くても良かったと思うが、これだけ多くの商品が発表されて成熟市場となった今日では、使う人を限定するような面白い化粧品がもっと登場しても良いのではないかと思う。
たとえば昔アパレル業界では、1ブランドのシェアが少なく多くのメーカーがひしめいていた時代は、面白い服がもっと多かったような気がする。最近アパレルは化粧品に消費支出で抜かれており、ファストファッションなどが席巻しているので、定番的な無難な商品が多くなって、とんでもなく面白い商品は店頭ではあまり見かけなくなったような気がする。
その分マーケットも縮小されて続けているのではないだろうか?
かたや化粧品は消費支出でアパレルを追い抜くほど、多くのメーカーが群雄割拠しているので、もっと面白い商品がたくさん出て来ても良いのではないか?各社が平均的商品を開発していては、差別化もでき難くなり、個性も出し難くなるので、市場が大きくなっている割にそのうち活力がなくなってしまうのではないかと少し心配になってしまう。

鯉渕登志子
フォー・レディーは、通販ビジネスを「点」で捉えるのではなく、マーケティングの視点を取り入れながら「線」で捉え、お客様調査から顧客育成まで通販事業を一気通貫でサポートすることが最大の特長です。

















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