単品訴求が当たり前になった今、化粧品は「1品ずつ選ばれる存在」になりつつあります。では、その先にあるはずの“揃えて使う価値”は、もう伝えられなくなってしまったのでしょうか。今回のコラムでは、実際に商品を使い続けているお客様の声を手がかりに、「単品」から始まった購入が、どのように“ラインナップ1”へとつながっていくのかを考えます。『週刊粧業』8月28日号に掲載された「激変するコスメマーケット vol.6」です。ぜひご覧ください。

週刊粧業
化粧品、日用品(トイレタリー製品、石鹸洗剤、歯磨き等)、医薬品、美容業、装粧品、エステティック等を中心とした精算・流通産業界の総合専門紙として、日々変化する業界の最新動向を伝えています。
ロイヤルユーザーが教えてくれた「揃えて使う」までの道のり

最近、ある通販化粧品会社のロイヤルユーザー様に集まっていただいてグループインタビューを行った。商品単価を通信販売ではやや高めに設定しているため、50代のお客様が中心だ。
さすがにロイヤルユーザーの集まりだけあって、ラインナップを揃えてご使用いただいているお客様がとても多かった。
お話を聞いていくと、初めからラインナップで購入したわけではないらしい。「最初の1品が気に入って、そのあと自然に揃えて定期購入するようになった。割引とか、その他の特典もあるので…」という声が寄せられた。改めて、このようなお客様を増やしていくことが化粧品メーカーにとって、とても大事なことだと感じさせられた。
化粧品の商品開発は、使用手順に沿って使用感も考慮しながら開発をすると思うので、ラインナップで使用してもらった方が開発者の意図は伝わるはずである。
単品購入が主流になった背景と、変わるブランド意識

ところが、最近は化粧品をラインナップで購入してくれるお客様は珍しくなってしまった。店頭販売では、セルフセレクションのお店で自由に単品購入をするし、通信販売ではインパクトのある単品訴求やオールインワンなどの広告が目立ち、ますますラインナップでの販売が難しくなった。
その理由は、消費者である女性たちが、さまざまな美容や化粧品の情報を手軽に得られるようになったこと、そしてさまざまなチャネルで化粧品を購入するようになったこと、そのため化粧品に対する”ブランド意識”が大きく変わってしまったためであると考えられる。その効果を厳しく問い、価格に見合う価値を精査して購入していることも要因の一つである。
そんな中で今回お話を聞くことができたお客様たちとの出会いは、まだまだラインナップで使用してくださるお客様が多く存在することを教えてくれたので、とても心強く感じたものだ。
化粧品の原点から考える、「ラインナップで売る」という選択

市場環境がいくら厳しくとも、自分たちが考え知恵を絞った商品は、揃えてご使用いただくことをあきらめずに販売したいものだ。
販売の手法として、まずは、広告を展開しやすい”ラインナップ”の中の1品を、いわゆる「看板商品(スター商品)」にしてもよい。そして、これを入り口にしてお客様に「ほかの商品も使ったみたい」と感じていただき、”ラインナップ”のヘビーユーザーに育成していくことが大切だと思う。
目先の売り上げだけのために”スター商品の単品”ばかりを訴求することは、本来の化粧品販売のあり方ではないと思う。
インパクトのある単品訴求をすれば、一時的に売り上げは伸びるかもしれない。ただ、そのためにお客様自身が肌のお手入れをきちんとして、自分の肌と向き合う時間を少なくしてしまうなど、簡単、便利に”手抜きをする”状況を生んでしまうことは、問題だと思う。
化粧品の原点に立ち返ると、化粧品はお客様に毎日正しい肌のお手入れをしながら、毎日自分の肌と向き合うことで、もっとお肌に関心を持ってもらい、もっとキレイになっていただくためのもの。
そもそも肌にかける時間が少なくなり、肌への関心が低くなれば、将来的には化粧品マーケットを小さくしてしまうのではないかと思う。
そのためにも“ラインナップ”で売ることをあきらめてしまっては本末転倒になる。化粧品のマーケットを縮小させないためにも “ラインナップ”で売ることをあきらめてはいけないのではないだろうか。

鯉渕 登志子
私たちフォー・レディーは、「何を売るか」ではなく「お客様がどう使い続けていくか」から、化粧品のコミュニケーションを設計してきました。単品で終わらせない。使うほどに理解が深まり、揃えて使う価値が自然に伝わる。そんな関係づくりを、商品設計・広告・CRMまで一貫してお手伝いしています。
用語解説
- ラインナップ-化粧水・美容液・クリームなど、使用手順や役割を前提に設計された一連の商品群。揃えて使うことで、開発者が意図した使用感や効果を実感しやすくなる。 ↩︎

















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